西暦1895年12月28日、パリのキャプシーヌ通りにあるグランカフェで歴史的な出来事が起こった。オーギュストとルイのリュミエール兄弟が人類史上で初めてシネマトグラフを有料で一般公開した。人々は初めてスクリーンに投影される映像を見た。
 映画の始まりである。
 映画が最初に一般公開されてから既に120年の月日が過ぎようとしています。その間、映画は常に科学技術の発展とともに進歩を繰り返してきました。1905年には、「画と音を同時に記録する方法」の特許が英国で確立されています。1908年には、アルバート・スミスが2色加色法「キネマカラー」を発表し、世界初のカラー映画興行をしました。その後も、1913年には、水銀蒸気ランプを映画撮影の照明として実用化、1918年には、ルッツェンが「フィルム端に音声を刻み込む方法」の特許を取得、1927年には、最初のディスク式トーキー映画『ジャズシンガー』が公開され、その後は音声再生の理由からフィルム速度も毎秒16フレームから24フレームに移行していきます。1928年には、16mm3レンズ回転ターレットカメラが発表。
 1932年には、テクニカラー社が3色転染法を開発し、ディズニー作品『花と木』を作成します。フィルム感度や色の再現力は年々向上し、またフィルムのフォーマットも35mm、16mm、70mmなど多様化し、様々な映像表現が可能となりました。フィルムマガジンの容量も200feet から400feetマガジン、1000feetマガジンと増え、長時間の撮影が可能になりました。カメラの性能も向上してハイスピード撮影などができるようになり、またカメラの軽量化により映像表現の幅も大きく広がりました。トーキーという、映画が最初に迎えた大きな転換期を担った映画音響も、その後はドルビーデジタル技術やサラウンド化などにより、映画表現に多大な影響を与えてきました。
 まさに映画はテクノロジーの発展とともに、その表現力を向上させてきたと言っても過言ではありません。映画の歴史は、技術革新の歴史でもあるのです。
 そして、映画が誕生してから120年が経過しようとしている現在、これまでの映画史を覆すほどの大きな転換期を迎えています。映画のオールデジタル化です。
 2013年末には、日本の約96%の映画館がDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)と言われるデジタルデータを使った上映方式に移行しています。
 映画は、過去100年以上フィルムとともに進歩をしてきました、しかし、今“映画=フィルム”ではなく“映画=デジタル”の時代へと劇的に移行をしました。
 撮影にはデジタルカメラが使用され、編集はオフラインを使ったデジタル編集、音響はデジタル化された音を扱います。そして、デジタルデータを使いスクリーンに投影する映像は、コンピューターグラフィックスを駆使して作られた地中深い海底の生き物や宇宙空間、果てはおとぎ話の世界までもが臨場感とリアリティーを持ってまるで現実に存在する世界のように表現されています。
 近年のテクノロジーの進歩は映画の表現だけでなく、映画制作におけるそれぞれの領域にも多大な影響を与えてきました。既に各領域が使用する機材はフィルム全盛期の頃の機材ではなく、そのほとんどがデジタルに改良されてきました。照明や録音機材も、新しい技術を取り込んだ安価で高性能のものが開発されてきました。
 まさに映画は、科学技術とともに歩んできたが故に、フィルムからデジタルに移行したと言えるのかもしれません。
 しかし、この時代の流れに、現在の映画制作体制それ自体が本当に対応してきたと言えるのでしょうか?
 フィルム制作のワークフローはそのままで、アナログ機器をデジタル機器に単に置き換えただけになっていないでしょうか?
 さらに言えばデジタル化によって、各領域の作業効率が大きく変わり、その領域で求められるものも変わってきているかもしれません。すなわち映画制作の職能領域の壁を越えた新たな制作工程表が必要とされている分野もあるかもしれません。そしてそれは、“新たな映画の作り方”の発見につながるに違いありません。

 本調査では、“デジタルシネマの制作プロセスの標準化による、アジア映像教育の拠点化”プロジェクトの一部として作成された「映画制作プロセスの実態調査報告書」で提案されている反復式映画制作体制と独立分業型映画体制のテスト撮影を行い、技術的に可能であるか、また、映画体制的にどのような効果があるのかその検証を行います。
【 参考文献 】
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「デジタルシネマの制作プロセスの標準化による、
アジア映像教育の拠点化」報告書Ⅱ(平成25年度)
技術研究のためのテスト撮影調査
2014年3月31日発行
発 行/東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻
〒231-0005 神奈川県横浜市中区本町4-44
http://www.fnm.geidai.ac.jp/
印 刷/東京リスマチック株式会社