introduction

東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻は、来年度で10年目を迎えます。これまで数々の映画が生み出されてきましたが、ここに新たに5作品、藝大製作映画の歴史に名を連ねる作品が誕生しました。今この世界に対して、映画という方法で真摯に向き合った5つの物語と、皆様が出会われることを、心から願っています。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻第8期生修了作品展[GEIDAI FILM 2014]、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

霧の中からいったんは奪い返した日常を、最後に捨て去る者、自らの死を自覚しつつも、工場の墓場から旅立っていく者、すすんで崩壊の中にとどまり、そこから未来へ繋がろうとする者、“海外”と呼ばれる場所は地獄でしかないと知りつつ、そこへ赴こうとする者、そして、都会のビルの一室に作られた理想郷を身を挺して告発する者、こういった人々が藝大第8期修了制作作品の主旋律を奏でている。私はもう10年近くこの催しに立ち会ってきたが、こんな年は初めてである。それぞれまったく異なったアプローチの作品でありながら、どれもギョッとするほど共通性のあるテーマに立ち向かっているのだ。それは“未来は暗澹たるものなのかもしれない予感”というテーマである。今が一番幸せと微笑む者もいないし、退屈だと言って暇をもてあます者もいない。いるのは、ただ一心不乱に上記のようであろうとする者たちだ。彼らは口をそろえて「今という世界は間違っている」と断言する。そして彼らは、かつてあったかもしれない安全な日常に回帰することをきっぱりと拒否し、それぞれのやり方でこの忌まわしい“今”を振り切って走り出そうとする。全作品を見終って、私は完全に納得した。やはり若者こそが、世界で最も聡明な存在だったのだ。

黒沢 清 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画監督

films

息を殺して

85min / アメリカンビスタ / HD / 5.1ch

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story

オリンピックを二年後に控えた2017年12月30日。ゴミ処理工場に一匹の犬が迷い込む。タニちゃんは犬を探すが見つからない。夜勤を終えたケン、ゴウ、足立さん、ヤナさんは帰りもせずTVゲームなどで遊んでいる。しかし彼らは皆同じような問題を抱えていたのだった。妊娠、不倫、家族、戦争で死んだ友達。そんな中、足立さんとの不倫関係に思い悩むタニちゃんだったが、いつしか既に死んだはずの元工場長の父親が、この場所にはいるのではないかと感じ始める。

cast

谷口 蘭 / 稲葉 雄介 / 嶺 豪一 / 足立 智充 / 原田 浩二 / 田中 里奈 / 稲垣 雄基 / のぼ(Nobody) / あらい 汎

staff

監督 / 脚本 五十嵐 耕平
製作 大木 真琴 / 加藤 圭祐
助監督 廣原 暁
撮影 / 照明 髙橋 航
録音 / 整音 稲村 健太郎
美術 河股 藍
衣装 谷本 佳菜子
ヘアメイク 光岡 真理奈(atelier ism®)
編集 姜 銀花
音楽 Sleepy Lemon

director biography

五十嵐 耕平

1983年静岡県生まれ。東京造形大学映画専攻に進学し、 同大学の教授、映画監督の諏訪敦彦氏のもとで映画を学ぶ。在学二年時に制作した初長編映画『夜来風雨の声』が、 Cinema Digital Seoul 2008 Film Festival に出品され、韓国批評家賞を受賞。2014年4月公開予定のふみふみこ原作オムニバス映画『恋につきもの』の一篇「豆腐の家」を監督。

director's voice

「工場の夜勤行くけどやる事無くてみんなでゲームしてる」友人は、子供を抱きながら笑って僕にそう言いました。他の友人も、結婚したり家を買ったり自殺したり不倫したり、当たり前にいろいろあって、生きたり死んだりしています。やがて大きくなる彼らの子供たちの将来に、果たして僕らの現在はどれほど有効なんだろ?と勘ぐってしまうけれど、凡庸で苦渋に満ちた、この生の一つ一つを今、肯定していくことからしか、何も始められない気がしています。

commentaries

たぶん世の中で最も奇妙な映画ベスト・テンというものを選んだなら、その一位か二位にはなるであろう。それほど、ぶっとんでいる。舞台は2017年の年の瀬の清掃工場の二晩。それに挟まれるサバイバル・ゲームの森。工場の従業員たちは仕事があるわけでもないのに、誰も帰ろうとしない。そこに犬が迷い込む。広大な工場内を行き交う人のなかには、死者も交じっているようだ。とっくに憲法は改正され、国防軍が創設されている時代状況のなか、ここでは別の時間が流れている。作り手の手の内を明かそうとしない映画は、それでもタニちゃん(谷口蘭)をはじめとする面々の内面の鬱屈を示しだす。監督の五十嵐耕平は造形大時代に傑作「夜来風雨の声」を作り、海外でも評価を受けていた逸材。登場人物のために映画を撮る誠実さは変わらないが、ここでは時代の閉塞感そのものが、ホラー映画を脱構築した本作での標的になっている。監督の盟友であり、自ら優れた映画作家でもある稲葉雄介がいい味を醸し出してもいる。

筒井武文 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画作家

映画は我らのもの(その2)
「例えばトム・クルーズでも誰でもいい。あなたは彼のクローズアップを撮ろうしている。その背景に数十人のエキストラがいる。今、そのエキストラのひとりが病気で倒れたとしたら、あなたは撮影を中止するだろうか?」と、ポルトガルの映画作家ペドロ・コスタが日本の学生に問いかけたことがある。「私はそのとき撮影を中止せざるを得ない。私はそういう映画を作っているのです」と彼は言った。五十嵐耕平の映画もまた、そのような映画であった。東京造形大学在学中に制作した作品はいずれも彼の友人たちが、便利な俳優としてではなく、映画そのものを発動する交換不可能な存在として映画制作という彼の人生の行為に編み込まれていた。しかし、ペドロが劇映画の制作システムからきっぱりと手を切ってしまったように、このようなアプローチは、人々がプロの「映画」と呼ぶものから遠くはなれてしまうことでもある。五十嵐耕平もまた、自らがアマチュアであることを誇らしげに宣言したこともあった。「大切なのは映画だけではない」と言いたげであった。しかし同時に「ただ映画だけが大切なのだ」と言わんばかりの残酷さを、彼は同時に実践する。その両極の振幅の中に映画が立ち上がっていた。そんな「正しい」アマチュアであった彼が、芸大という場所でどのように変化したのか、心配でもあり、楽しみでもあった。しかし、彼は映画としての強靭さ、強靭な滑稽さのようなものを手に入れたようだ。いっそう残酷で、いっそう優しく、厳格で自由だ。もはやアマチュアでもプロでもなく、映画の現在に直面し、人々が映画と呼ぶものに踏みとどまって、映画の可能性を探求する人間としてそこにいる。希望もなく、現実の世界との絆が断ち切られ、居場所を失ったものたち(つまりわれわれ)の暗澹たる時空間を描きながら、それでもこの映画が明るい希望を湛えているように見えるのはなぜだろうか?彼にとって、ただ映画だけが、そのような過酷な現実の中で宙づりになった息も切れ切れのものたち(死者さえも)に唯一の居場所を、つくり出すことができると確信しているからだろうか? とんでもない映画のように見える「息を殺して」を、ある人は「これは映画ではない」と言うのかもしれない。しかし何人かの若者たちが「なんだ、映画も捨てたもんじゃないな」と、呟きながら映画館を出て行くだろう。ブラボー!

諏訪敦彦 - 映画監督

RIGHT HERE RIGHT NOW

88min / アメリカンビスタ / HD / 5.1ch

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story

大学を中退した工藤は友人の鈴木からある話を持ちかけられる。
それはとある芸術祭のスタッフとしてしばらくの間海外のある島に滞在してみないかという話だった。参加するにはキョウコという女性に会えば良いらしく、工藤は翌週まで鈴木の紹介を待つことにする。そんなある日、工藤は旧友の矢野と再会する。地元を出てから一度も会っていなかった工藤は再会を喜ぶが、矢野の様子がおかしい。「まずい!一緒に来い!」突然走り出す矢野。そこに矢野を追うヤクザが押し寄せてくる。分けも分からず矢野と追われることになる工藤。次々と現れる追っ手。二人は無事にこの街を出ることが出来るのだろうか?

cast

栁 俊太郎 / 亀山 陽 / 奥野 瑛太 / 山科 圭太 / 渡辺 拓真 / 池上 幸平 / 米重 晃希 / 鈴木 愛 / 永冶 美優紀 / 宮本 りえ / 榊 英雄

staff

監督 一見 正隆
脚本 一見 正隆 / 堀江 貴大
助監督 堀江 貴大 / 今野 恭成 / 村山 宗一郎
撮影 / 照明 佐藤 雅人
録音 / 整音 安田 拓朗
美術 吉田 尚加
編集 小林 靖子
製作 秋山 剛志
メイク 宮村 勇気
音楽 genseiichi

director biography

一見 正隆

1987年生まれ。三重県出身。京都造形芸術大学映像舞台芸術学科に入学し映画制作を始める。在学中に「遠い部屋」(09)や「いきてるうちに」(10)を監督。2012年東京藝術大学大学院映画専攻に入学。監督した短編「無知と魚」(13)が札幌国際短編映画祭に入選。他の監督作品として2014年公開のオムニバス映画『恋につきもの』の一編『恋につきもの』がある。

director's voice

ある街から「出る」という物語は古今東西様々な映画で主題となっていると思います。あるいは「出たかったけどでれなかった」や「出たくなかったけどでなくてはならなくなった」とも言えるかもしれませんがいずれにせよそのような映画の登場人物が最後に見せる新天地へ向ける希望やあるいは絶望に満ちたまなざしに私はいつも心を打たれます。地元でも下宿先でも、人はいつも「今居るところ」と「ここではないどこか」について思いを巡らせるのではないのでしょうか。そんなややナイーブなモチーフをハチャメチャな映画の運動にのせて私より先に街を出て行った友人たちに贈ります。

commentaries

一見正隆監督は青春映画を活劇とぶつけることで、映画の新しいフォルムを創造する。学校をやめ、横浜で生ぬるいバイト生活を送る主人公工藤(柳俊太郎)は、旧友の矢野(奥野瑛太)が引き起こした現金強奪事件に巻き込まれたことで、モラトリアムの時空が逃走の時空に変貌する。バスケット仲間が自分の狩人に変わる恐怖。海外脱出を世話してくれるはずのキョウコと会うまでの数日を、七里ヶ浜に住む先輩のところに身を隠す。ここでの束の間の抒情は、傷を負って逃げ込んだコンテナに閉じ込められ貨物船で海外に運ばれているらしい矢野の衰弱した動画メールで残酷に断ち切られる。淡々と状況説明をする工藤のモノローグを裏切るように、映画は加速度的に、喜劇と悲劇の間を揺れ動く。横浜のロケーションが素晴らしい本作は、工藤の友人たちとして藝大の学友が多数出演していることもあり、一見監督の藝大からの、またジャンル映画からの逃走劇にようにも見えてくる。はたして、脱出は成功するのか。

筒井武文 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画作家

霧の中の分娩室

100min / アメリカンビスタ / HD / 5.1ch

霧の中の分娩室[画像1]
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story

街では人が忽然と姿を消していた。誘拐事件として捜査にあたる刑事の松永秀幸(管勇毅)。一方で秀幸の妻•恵里(竹厚綾)は出産を迎えるが、何者かによって我が子を誘拐されてしまう。未だ見ぬ我が子のため、破綻した夫婦関係を取り戻すため必死になって捜す秀幸だが、一向に手がかりをつかむことができない。神隠しに遭ったのではないか…言い知れぬ恐怖が頭をよぎる中、ふと空を見上げるとそこにはオーロラが不気味に揺らめくのであった。

cast

管 勇毅 / 竹厚 綾 / 篠原 ゆき子 / 龍 坐 / 山下 真実子 / 津田 寛治

staff

監督 / 脚本 桝井 大地
製作 宮城 孝太朗
助監督 七字 幸久
撮影 Gheyret Juret
照明 武田 明
録音 塚本 泰章
整音 佐々木 淳一
美術 吴 思齐
衣装 高嶋 悠
編集 周 暁倩
ヘアメイク 戸田 翔一郎(atelier ism®)
音楽 AAANNNOOO

director biography

桝井 大地

1987年生まれ、北海道出身。慶應義塾大学在学中より自主映画制作を始める。主な監督作に『少女諸事情』(11)、『空洞』(12)、2014年4月公開予定のふみふみこ原作オムニバス映画『恋につきもの』の一編『いばらのばら』がある。

director's voice

我が子の誘拐による夫婦関係の破綻。そんなサスペンスを軸にした人間ドラマを描きたいという欲望からはじまり、そこに愛してやまないジャンル映画的要素を放り込んだ結果、まるでジャンルの区別がつかない無秩序な代物が出来上がってしまいました。この無秩序ぶりは果たして受け入れられるものか、私にもわかりません。

commentaries

霧に包まれた森の中で、自転車の少女が神隠しに遭う。湖に舞い落ちる少女のマフラー。印象的なプロローグから超自然的な出来事を描いたかと思われた本作は、その連続失踪事件の捜査を主にしたジャンル映画に挑んでいることが明らかになる。その段取りに捉われ、学生には過ぎた挑戦だったのかと思われなくもない。ところが、捜査に当る松永刑事(管勇毅)の生まれたばかりの赤ん坊まで誘拐され、精神不安定になった妻(竹厚綾)が病院を抜け出す描写から、急にスイッチが入ったように、みるみる映画が緊張度を高めていく。夫婦の亀裂を呼び、交霊術に頼る場面は圧巻だ。夫は自分の家族を守るために捜査することになる。とりわけ湖畔の民宿にひとり住む秀美(篠原ゆき子)とのやり取りは、鳥肌が立つほどのサスペンスを呼び込む。そして、ふたりを分け隔てる霧の超絶的な威力。そして迎える家族の肖像。桝井大地監督のジャンル映画を超えるという賭けの成果を見ていただきたい。

筒井武文 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画作家

 桝井大地の描く人物は、体の芯に孤独という鉄の棒が一本、通っている。臨月の腹をさする妻、寄り添う夫。平和なはずの画面には、見えない亀裂が走る。亀裂の原因は、夫が多忙な刑事で、家庭を顧みないから?そんな説明を吹き飛ばすほどの圧倒的な不安が、2人の肌から滲み出て、観客は身の置き所が無いと感じる。彼らの赤ん坊が誘拐されて、謂れのない不安に原因が与えられると、むしろ落ち着いて観られるようになるから不思議なものだ。誘拐は、相手構わず頻繁に起こっているようだ。犯人は半端に捕まるが、犯人を越えた力の存在は、「神隠し」という単語まで呼んでくる。「津波が人を呑み込むくらいだから、霧が人を呑み込んでもおかしくないじゃないですか」女刑事がふと漏らすひと言が、この映画の真の主人公を言い当てている。だから霧が湧く場面と、煙草をふかす場面からは目が離せない。人の孤独が生む煙と、天の孤独が生む霧と。結局赤ん坊は戻るのだが、家族の情景に違和感が残る仕組みになっている。違和感の正体を、霧の彼方に追いやることがわれわれの生活ではないのか。問われた気がして、熱くなった胸に手を当てた。

荻野アンナ - 作家

あの電燈

53min / 16:9 / HD / 5.1ch

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story

ある朝、マドが目覚めると、辺りから人々が消えていた。どうやら大きな台風が来るらしく、皆避難したらしい。通っている高校を訪れても、誰もいない。かと思いきや、同じクラスの藤井と会う。藤井を避難させようとするマド、一人で逃げることを拒む藤井。二人は、まだ残っている人がいないか街を探しまわる。映画が上映され続けている無人の映画館、少女が一人たたずむ寂れたプール、引退するストリッパーが居残るストリップ小屋、老人が靴を静かに磨き続けるボーリング場。様々な場所を訪れた後、強まる雨の中、二人は閉鎖された工場へとたどり着く。そこは、マドの父親が死んだ場所でもあった。

cast

小林 万里子 / 清水 尚弥 / 竹下 かおり / 涼凪 / 柳谷 一成 / 吉田 圭佑 / 麿 赤兒

staff

監督 / 脚本 鶴岡 慧子
製作 金 毓嘉
助監督 栗本 慎介 / 川喜田 茉莉
撮影監督 小川 努
照明 源 元
録音 / 整音 中野 弘基
美術監督 岡田 匡未
編集 近藤 薫子 / 鶴岡 慧子
ヘアメイク 中 麻衣子(atelier ism®)
音楽 中野 弘基
挿入歌「あの電燈」 榊原 光芳

director biography

鶴岡 慧子

1988年生まれ、長野県出身。立教大学在学中から映画を撮り始め、卒業制作としてつくった初長編監督作品『くじらのまち』(2012)が、自主映画コンテストPFFアワード2012においてグランプリを受賞、その後釜山国際映画祭やベルリン国際映画祭など各国の映画祭にて上映される。東京藝大在学中に長編2作目となる『はつ恋』(2013)を監督、同作品はバンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガーアワードにて上映された。

director's voice

[どんな場所で撮影がしたいか]をとっかかりに物語を考え始め、一気に脚本を書いた覚えがあります。決して長いとは言えなかったプリプロ期間で希望のロケーションを全て叶えることができたのは、信州うえだフィルムコミッションによる全面協力、またたくさんの方々が快く撮影場所を提供して下さったおかげです。今は遠くにあって、いずれ忘れてしまうかもしれない何かに思いを馳せるような映画にしたいと思いました。撮影時高校生だった若い二人や、この映画を観てくれた人たちが、時が経ってこの映画から遠く離れても、ある時ふとなんとなく思い出してくれる瞬間が訪れれば嬉しいな、と思います。

commentaries

「くじらのまち」でPFFグランプリを獲得した鶴岡慧子監督の「はつ恋」に続く最新作。彼女の魅力である存在を掬い上げる力に加えて、フィクショナルな設定を施し新たな表現の舞台を切り拓いた。なにしろ、長野県にあるらしい、ひとつの町全部を無人にしてしまうのだ。そこで描かれる女子高校生の一日。ヒロイン灰島マド(小林万里子)の周りには誰もいない。台風で避難警報が出されたという言い分は通らない。人の痕跡まで消してしまう周到な演出がなされるからである。かろうじて、同級生の藤井(清水尚弥)と出会うが、なぜという質問も意味をなさない。かくして無人地帯を高校生の男女が、冥府巡りのように彷徨う。プールサイドで見つけた女の子は、マドの手に不気味な滑りを残して消えてしまう。やがて、その場の記憶を生きている人に巡り会う。ここでは不在自体が表現の強度を放つばかりか、生の残り香が立ち込める。そして、「息を殺して」とも偶然の連携を生きる主題が導かれるのである。

筒井武文 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画作家

長野のある町に台風が上陸するらしい。朝、目が覚めると住民はすでに跡形もなくイヴァキュエイトしているのだが、高校生女子1人と男子1 人だけが学生服姿で取り残されている。そんな設定は恥ずかしい。震災以降のリアルを借りた若者の妄想みたいで安っぽい! それでもこの映画は、どうやらそんな妄想の底にある実在の感触を、真剣に取り扱おうとしているのだ。――私の若い身体は、いま、一つの終わりを生きており、それゆえ世界のさまざまな終わりについて何かを照らす特別な資格がある、とでもいうような。傲慢な確信。その若き傲慢が、皮膚に漲って灯りとなり、町のあちらこちらで、終わりを終わりきれぬモノたちを個別につかのま浮かび上がらせ、燃やすのだ。

平倉圭 - 横浜国立大学准教授 / 芸術論・知覚論
                             

「光」を捉える感性の強い監督だと、しみじみ思う。『くじらのまち』(2012)では、思春期の<いま・ここ>にある無意識な輝きをスクリーン一杯に捉えたが、今回は社会全体が失った“無自覚な時代”の輝きと喪失の残像を見せてくれた。比較的大きなテーマに強度を持たせたのは、ひとつの村を無人にした演出の仕かけ。まだ生活の温度を残す民家や学校の中で、まるで自分自身も一人取り残されたかのような錯覚に陥るのは、視覚の演出によるものだけではない。もしすべてが間違いで、取り返しのつかない過ちをしたと気付いても、それでもその間に生まれた感情や体験や記憶は、ゼロにはならない。最後に残った否定も 肯定もできない記憶の痕跡を、どう処理すればいいのだろう。この作品は、さまざまな境界線にたたずみながら、そこで彷徨う人のリアルと、行き場を失った記 憶の先を鮮やかに描き出す。そこでも、やはり「光」を捉えて、みせてくれる。

鈴木沓子 - ライター
                             

「故郷で映画を作りたい」その気持ちがとても嬉しかった。私はただただその想いに応えたい一心で、ある種の熱と勢いをもってこの作品に関わらせて頂きました。撮影現場は一般の劇映画ではまず見られない学生特有の連帯や自由な空気に包まれ、とても心地のいいものでしたし、皆がイメージを共有し、それをなんとか形にしようと奔走する姿に胸が熱くなりました。そうして完成した作品はとてもクールでかっこいいけれど、私にとっては、皆でプールのフェンスを飛び越えたこと、旅の一座とのまさかの邂逅や、夜の街をえんえん徘徊したこと、一方通行路を逆走しちゃったり、はたまた撮影中に台風が来ちゃったり、名刺交換を求められる女優さんがいたかと思えば、臨月を迎えた女性がロケ地を占拠したり、なーんていういちいちがとてもおかしくいい思い出です。きっと作品を見る度にあの日々を思い出し、私を「くすっ」とさせてくれることでしょう。かっこいいぞ鶴岡組。

原悟 - 信州上田フィルムコミッションマネージャー
   

ユラメク

60min / 16:9 / HD / 5.1ch

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story

従順なプログラマーとして働く成瀬カズヤはチャットで知り合った女性・ルミと結ばれる。成瀬は恋に浸り、いつしか別世界へ迷いこむ。そこでのルミには精神を患った夫がいた。成瀬は彼らと共に過ごしはじめるが、恋の幻想はやがて不安と狂気におかされる。

cast

小林 ユウキチ / 渡辺 奈緒子 / 斎藤 歩 / 札内 幸太 / 尾藤 亜衣 / 戸田 昌宏 / 岩谷 健司

staff

監督 / 脚本 / 編集 松井 一生
製作 松井 一生 / 遠藤 幹大
助監督 坂下 雄一郎 / 山下 洋助
撮影 / 照明 松井 宏樹
録音 西垣 太郎
美術 谷本 佳菜子
音楽 重盛 康平
メイク 須見 有樹子

director biography

松井 一生

1987年生まれ、愛知県出身。
慶応義塾大学在学中より自主映画制作を始める。大学卒業後、モバイルゲームのシナリオライター、作詞家などを経て、東京藝術大学院映像研究科に入学。主な監督作に『風が見えない』(09)、『ブレイクガールズ』(11)、オムニバス映画『らくごえいが』中の一編『ライフ・レート』(12)がある。

director's voice

以前から、1本の映画の中でいくつもの世界観が錯綜する映画を作りたいと考えていました。たとえば現実と夢想、恋愛と狂乱、男と女、メッセージと詩…あらゆるものが混在した状態こそ、私たちが生きる世界の姿であり、また人生ではないかと思うのです。あとはただひたすら無我夢中で作りました。観ていただく方にとって、この映画が未知への扉となれば本望です。

commentaries

傷つきやすい魂の映画。そう呼びたい誘惑に駆られる。鉛筆一本で世界を表現できる画家と映画作家は違う。それだけに、ここでの松井一生監督の世界へのコントロールは驚異的だ。成瀬カズヤを演じる小林ユウキチの作家が憑依したとしか思えない繊細極まりない存在感はどうだろう。小豆色の壁に囲まれた会社。次いで、彼を囲むのは、赤だ。出会いのコートの彫刻への反射。レストランでの対話場面での俯瞰による赤絨毯。正面から切り返されたときに、彼を射るルミ(渡辺奈緒子)の眼差し。彼が呼ばれた彼女が夫(斎藤歩)と暮らす部屋は、狂気のような白が支配する。ここで三人の共犯的な同居が始まる。ここに、どう赤が導入されるか、部屋がもっと白に煌めくか、そして決定的な黒が…。ついに撮られることなく終わったカール・ドライヤーの色彩映画すら夢想されるではないか。衣装と美術と撮影の連携ぶり、それはセットに止まらない。雨上がりの朝の埠頭での船とキャメラの動きの官能性も、その一例である。

筒井武文 - 東京藝術大学大学院映像研究科教授 / 映画作家

面白かった。物語の全てがわかるわけじゃない、でも映像が強く残っている。また観てみようとなる

桝井省志 - 映画プロデューサー/アルタミラピクチャーズ代表取締役
   

information

横浜

会期 2014年3月1日(土)・2日(日)
会場 東京藝術大学横浜校地馬車道校舎3階大視聴覚室 GoogleMap
アクセス 横浜市中区本町4-44(みなとみらい線「馬車道」駅 5、7出口すぐ)
会場ウェブサイト http://www.fm.geidai.ac.jp
料金 入場無料・予約不要
主催 東京藝術大学大学院映像研究科
共催 横浜市文化観光局

timetable

3月1日(土) 13:00 「あの電燈」
14:00 「ユラメク」
15:20 「霧の中の分娩室」
17:20 「息を殺して」
19:00 「RIGHT HERE RIGHT NOW」
3月2日(日) 13:00 「RIGHT HERE RIGHT NOW」
14:50 「息を殺して」
16:30 「霧の中の分娩室」
18:30 「ユラメク」
19:30 「あの電燈」

渋谷

会期 2014年3月8日(土) ~ 3月14日(金)
会場 渋谷 ユーロスペース GoogleMap
アクセス 渋谷区円山町1‐5 KINOHAUS 3F(渋谷・文化村前交差点左折)
会場ウェブサイト http://www.eurospace.co.jp
料金 前売り1回券 ¥800
前売り1日通し券 ¥1,500
当日1回券 ¥900
主催 東京藝術大学大学院映像研究科

timetable

3月8日(土) 19:00 「息を殺して」
21:00 「霧の中の分娩室」
3月9日(日) 19:00 「あの電燈」+「ユラメク」
21:15 「RIGHT HERE RIGHT NOW」
3月10日(月) 19:00 「RIGHT HERE RIGHT NOW」
21:15 「息を殺して」
3月11日(火) 19:00 「ユラメク」
21:15 「あの電燈」
3月12日(水) 19:00 「霧の中の分娩室」
21:15 「RIGHT HERE RIGHT NOW」
3月13日(木) 19:00 「息を殺して」
21:15 「ユラメク」
3月14日(金) 19:00 「あの電燈」
21:00 「霧の中の分娩室」

!3月8日(土)・14日(金)は、2回目の上映開始時間が早まりますのでご注意ください。

event

3月8日(土) 19:00の回上映前 『息を殺して』舞台挨拶
登壇者:谷口蘭/稲葉雄介/嶺豪一/足立智充/原田浩二/稲垣雄基/田中里奈
のぼ/五十嵐耕平
21:00の回上映後 『霧の中の分娩室』舞台挨拶
登壇者:管勇毅/竹厚綾/篠原ゆき子/山下真実子/松田竜一/津田寛治
桝井大地
3月9日(日) 21:15の回上映前 『RIGHT HERE RIGHT NOW』舞台挨拶
登壇者:栁俊太郎/亀山陽/山科圭太/米重晃希/藤原大志
徳角浩太郎/佐藤憲太郎/永治美優紀/宮本りえ/一見正隆
3月10日(月) 19:00の回上映前 『RIGHT HERE RIGHT NOW』スタッフ舞台挨拶
21:15の回上映後 『息を殺して』トークショー
トークゲスト:岡田利規(演劇作家/小説家/チェルフィッチュ主宰)
3月11日(火) 19:00の回上映前 『ユラメク』舞台挨拶
登壇者:小林ユウキチ/渡辺奈緒子/札内幸太/尾藤亜衣/松井一生
21:15の回上映後 藝大8期監督トークショー
トークゲスト:諏訪敦彦(映画監督)
司会:筒井武文(東京藝術大学大学院映像研究科教授/映画作家)
3月12日(水) 21:15の回上映後 『RIGHT HERE RIGHT NOW』トークショー
トークゲスト:北小路隆志(映画批評家)
3月13日(木) 21:15の回上映後 『ユラメク』トークショー
トークゲスト:桝井省志(東京藝術大学大学院映像研究科教授/映画プロデューサー)
3月14日(金) 19:00の回上映前 『あの電燈』舞台挨拶
登壇者:小林万里子/清水尚弥/竹下かおり/涼凪/吉田圭佑/柳谷一成
森正祐紀/鶴岡慧子
19:00の回上映後 『あの電燈』トークショー
トークゲスト:小林万里子、清水尚弥(『あの電燈』主演)
21:00の回上映後 『霧の中の分娩室』トークショー
トークゲスト:役所広司(俳優)、管勇毅(『霧の中の分娩室』主演)

!『あの電燈』監督鶴岡慧子は3月11日(火)藝大8期監督トークには欠席となります。